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うすい流 実例から読み解くキャッチコピーの引出しの作り方 2.カッコウの托卵作戦

2021.03.10

文/うすいふじこ

心に届くキャッチコピーを作るのは、難しい作業です。
優れたコピーがどんな仕組みでできているのか知ることで新しいコピー作りのヒントとなるよう、“いいな”と思ったコピーの実例を分析し、お手本にできるような「法則」を一つずつ読み解いていきます。

今回は、商品については具体的に何も語っていないのに、相手の脳内に最高のイメージを育んでしまう、そんな魔法のようなコピー作りの法則をご紹介します。

良いイメージだけを育むテクニックとは?

取り上げるのは、サントリーから2020年秋に発売されたジャパニーズジン翠(SUI)のキャッチコピー。

流行に敏感そうでかなり尖った感じの美人なのに、おっさん上司と気軽に居酒屋に飲みに行ってくれちゃうような憧れの部下を演じるのは、桜井ユキさん。角田晃広さん演ずるおっさん上司から「流行ってんの、それ?」と聞かれ、「まだ」と答える。

そんなCMの締めに現れるのが、こちらのキャッチコピーです。

それはまだ、流行っていない。

(※映像はこちらからご覧いただけます。)
https://www.suntory.co.jp/enjoy/movie/d/5714930401472.html

商品について何か語っているようで、実は何も語っていない。しかも否定形のキャッチコピー。「えっ?」って感じで気になりますよね。

でも、ふと気づくと、あなたの頭にはこんなイメージが残っているのではないでしょうか。

「これから流行るヤツ。」

・・・よく考えると「これからも流行らないヤツ」という選択肢もあるはずです。
にもかかわらず、ほとんどの人の頭には「これから流行る」という“とても良いイメージ”が自動的に生まれてしまうのです。

さらに流行に敏感な人なら、こんなイメージまで湧いてくるかもしれません。

誰よりも早く飲んで、流行の最先端をキープしたい。
これから流行るヤツを、既に当たり前に飲む自分はカッコいいはず。

等々。

なぜ、“良いイメージ”ばかり生まれてしまうのか。もちろん、そこにはテクニックが隠されています。
どんな技か、見ていきましょう。

「イメージの卵」を相手に託す

「それはまだ、流行っていない。」

商品について何も語っていないように見えるこのコピーですが、実はコピーライターは、気づかぬうちに相手に「イメージの卵」を託しています

その卵には、こんな仕掛けがしてあります。

「未然形(まだ)」で語られている。
「否定形」で語られている。

「未然形」+「否定形」で語られる内容は、「今はまだ実現していないこと」です。すると、脳は勝手に「これからどうなるか」、イメージしてしまいます。
その際、「否定形」で語られた内容は逆転現象を起こし、未来では「肯定形」になるのです。

「未然形」+「否定形」=それはまだ、流行っていない。
    ⬇(脳内で逆転)
「未来形」+「肯定形」=それはこれから、流行る。

このコピーを受け取った人、つまりイメージの卵を託された人は、自分の頭の中で勝手に、最高の未来像を育て上げてしまうのです。

この商品の親であるメーカーでさえ、我が子がこれから流行るとは断言できません。それなのに、相手の頭の中には「これから流行る」というイメージが出来上がってしまうなんて、スゴイじゃないですか!

この法則のコピーに出会う度に、私は「カッコウ」を思い出します。

「カッコウの托卵(たくらん)」という言葉を聞いたことがありますか?
カッコウは自分で子育てをしません。別種の鳥の巣に隙を見て卵を産み落とします。気づかぬうちに卵を預けられてしまった鳥は、そうとは知らず一生懸命卵を温めて孵します。

商品について何も語っていないのに、イメージの卵を託しただけで相手が勝手に最高のイメージを育んでしまう。カッコウのような阿漕さはないまでも、関係性がえらく似ている・・・

そんなワケで、私はこの法則を「カッコウの托卵作戦」と呼んでいます。

「それはまだ、流行っていない。」をカッコウの托卵作戦で図説すると、このようになります。

カッコウは別種の親鳥に卵を托す。託された親鳥は自分の卵と思い育てる。

キャッチコピーを、消費者は脳内で流行るとプラスに解釈する。「カッコウの托卵」によるキャッチコピーの構図

ほかの実例を見てみる

「カッコウの托卵作戦」のよい実例として、このシリーズの1回目、「同軸上の対極の法則」でピックアップした、西友ストアのこちらのキャッチコピーを挙げることができます。(このコピーは様々なテクニックが複合的に使われていて、つくづくよくできているな、と思います。)

安いクセして。

このコピーについての詳しい解説はこちらをご覧ください。

うすい流 実例で見るキャッチコピーの引出しの作り方 1.同軸上の言葉で遊ぶ

このコピーでコピーライターが読み手に託す「イメージの卵」には、こんな仕掛けがしてあります。

「たしなめや非難の接尾語(クセして)」
「未完結の文章」

卵を託された人の脳は、ついつい、こんな具合に卵を温め、育ててしまいます。

「たしなめや非難の接尾語(クセして)」 ⇒ 非難されたことがらを前向きに解決しようとする。
「未完結の文章」 ⇒ 文章の後半を作り、完成させようとする。 

最終的に頭の中では、こんなイメージの立派なヒナが孵ります。

価格は安いが、品質は高い。
価格は安いのに、どれもおいしい。
価格は安いのに、お店は親切。

等々。

ここで「たしなめ・非難」の対象となっている「安い」は、実は消費者にとってはメリットです。“クセして”という仕掛けによって「たしなめ・非難」の対象の形を取ることで、読み手がそれぞれ後半で前向きに解決するよう、構造的に誘導しているのです。

脳内で完成されるコピーの後半(品質は高い、おいしい、等)は、読み手によってそれぞれに内容が変わります。しかし読み手はほぼ間違いなく、その人が求める最高の価値を言葉として置き、このコピーを完成させるのです。

「カッコウの托卵作戦」の恐るべき力がわかってきましたね。

ここからは、応用編です。

応用編 1. 半世紀前の優れた実例を解析

「カッコウの托卵作戦」の好実例は、なんと半世紀も前の昭和40年代に見出すことができます。

クリープを入れないコーヒーなんて

森永乳業の超ロングセラー商品「Creap」のキャッチコピーです。

森永乳業のサイト内「クリープの歴史」によると、昭和36年(1961年)、インスタントコーヒーの輸入自由化が追い風となり、同年に新発売されたクリープは爆発的に売れたとのこと。昭和40年代に上記のキャッチコピーを使った広告をスタート。その後、多くの著名人を起用して、「クリープを入れないコーヒーなんて・・・」にその著名人なりの比喩を続け、広告展開したそうです。

例えば、漫画家の故・手塚治虫氏の場合が、こちら。

クリープを入れないコーヒーなんて・・・風刺のない漫画のようなもの

別の比喩を重ねることで、より残念さが強調されます。 “残念さのダメ押し”ですね。

さて、本題に戻って、このキャッチコピーにおける「カッコウの托卵作戦」を見てみましょう。
ここで託される卵は、次のような形です。

「後に続く言葉を軽視する助詞(なんて)」
「未完結の比喩」

卵を託された人の脳は、こんな風に卵を育みます。

「後に続く言葉を軽視する助詞(なんて)」⇒ 残念の極致をイメージする。
「未完結の比喩」⇒ 含みを持った未完結の文が何を比喩しているのか、言葉を補い完成させようとする。

著名人の言葉を借りてまで強調したかった“残念”の正体とは?
それは、それぞれの読み手の脳に託されています。読み手は「未完結の比喩」を完成させ、残念の正体を自動的にイメージしてしまいます。例えば――

クリープを入れないコーヒーなんて・・・飲めたもんじゃないよね。
クリープを入れないコーヒーなんて・・・本当においしいコーヒーとは言えないよね。

等々。

ここで出来上がるのは、“残念なコーヒーのイメージ”です。まだヒナは孵っていません。

が、実は気づかぬうちに、“クリープを入れたおいしいコーヒーのイメージ“も脳内に並行して生まれているのです。

最終的に頭の中で生まれるヒナは、こんなイメージです。

クリープを入れたコーヒーは、最高においしい
おいしいコーヒーに、クリープは不可欠。

残念の極致をイメージさせることにより、正反対の最高によい状態も自動的に想起させる。「カッコウの托卵作戦」の上級編です。

応用編 2. 平成の優れた実例を解析

もう一つ、別のバリエーションをご紹介します。

こちらは1992年平成4年)に発表されて大きな話題を呼び、2008年まで継続使用されたパナソニックのキャッチコピーです。

きれいなお姉さんはすきですか

この頃からパナソニックは、美容家電に力を入れるようになりました。

男子に向けて問いかけているように見えるこのコピーですが、実は、「イメージの卵」をこっそり託される真のターゲットは、若い女性です。

このコピーを見ると、下は中学・高校生男子から、上はさらに年配の“男子”まで、「はい、大好きです!」と答えている姿が目に浮かびます。それこそがまさに、若い女性達に託される「イメージの卵」なのです。

女性達は、託された「イメージの卵」を頭の中でこんな風に温め始めます。

誰だって、きれいなおねえさんが好きに決まってるわよね」。

その考えはすぐに、こんな欲望へと変化します。
「どうせなら、私こそが、その“きれいなおねえさん”でありたい!

おそらくその時、彼女達の頭の中には、その美容家電を使ってなれる自分なりの“最高にきれいなおねえさん像”がしっかりと出来上がっているに違いありません。

ターゲットではない層への問いかけの形を取りながら、蓋を開ければ、ターゲット層の脳内にそれぞれの理想像と欲望を明確に生み出している。これもまた、「カッコウの托卵作戦」の上級編と言えるでしょう。

こちらのコピー展開は既に終了し、現在は、「忙しいひとを、美しいひとへ。」というコピーが用いられています。世の中の変化に合わせ、ジェンダーフリーの時代にマッチしたものになっていますね。

コピーを作成する際は、世の中の気分や動向もしっかり意識しておくことが大切です。併せて覚えておきましょう。

おわりに

自慢の商品のことは、ついつい、あれもこれも伝えたくなってしまうもの。でも、それが押しつけがましく思われてしまう場合もあります。
また、人の感じ方は様々ですから、同じ商品でも人によって“いいな”と思うポイントは異なっている可能性もあります。

そんな問題を超越的に解決する可能性を持つのが、「カッコウの托卵作戦」です。商品について具体的に何も語っていないようなコピーでありながら、相手の脳内に最高のイメージを育んでしまうのです。

とは言え、何も語らないのはかなり勇気の要ることです。また、「イメージの卵」は相当知恵を絞らなければ仕掛けることはできません。

作戦がうまく奏功するよう、祈ります。

今回のおさらい
心に残るキャッチコピーの法則のひとつ:
カッコウの托卵作戦
①商品やサービスについて何も語っていないようでいて、最高のイメージを相手の脳内に生み出す手法のこと。
②カッコウの托卵のように相手に「イメージの卵」を託す。卵には、未然形、未完結、反語的な内容等の仕掛けがしてある。
③受け取った「卵」は脳内で逆接や逆転現象を起こし、それぞれ自分にとっての“最高のイメージ”が育まれてしまう。

この記事を書いたのは

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うすいふじこ

コピーライター、プランナー
コピーライター歴、約20年。紙媒体からウェブサイトまで、商品広告、企業広告、フリーペーパーや広報誌の編集・制作、会社案内、イベントのスローガン、インタビュー記事など、数多くの制作に携わってきました。
これまで自分なりにやってきたコピーライティングの仕事の進め方やコツ、また、言葉について日々考えたことなどを公開していきます。
「こんなテーマで聞いてみたい」ことなどありましたら、リクエストしてください。可能な限りお答えしていきます!

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