うすい流 「キャッチコピー」と「ボディコピー」は、頭のココを使って書く!
「キャッチコピー」というワードは世間にすっかり認知されていると思いますが、「ボディコピー」というと、聞いたことがないという人も多いかもしれません。
キャッチコピーを作るときは、ほとんどの場合、ボディコピーもセットで作ります。それなのに、「ボディコピー」はまるでキャッチコピーの陰の存在、サブ的扱いです。
でも、実はボディコピーは、うまくするとキャッチコピーのさらに上を行くほど、読む人のハートに急接近する力を持っているのです。
今回は、キャッチコピーとボディコピーの役割の違いやコンビネーションの仕組み、作る際の頭の使い方の違いなどについて、コピーライターの立場から考察してみます。
「キャッチコピー」と「ボディコピー」、それぞれの役割とは?
広告を見てまず目に入る大きな文字が「キャッチコピー」です。そして、すぐそばに大抵ひとかたまりの小文字群が添えられています。文字量はケースによりまちまちですが、これが「ボディコピー」です。
キャッチコピーとボディコピーはワンセットのもの。それ故に、異なる役割を担っています。それぞれどんな性質を持っているのか見ていきましょう。
「キャッチコピー」は、読み手の心に引っかかるフック役
「キャッチコピー」は、ユーザーが商品や企業と出会う第一接点となるべく作られます。
この商品は何モノなのか、何のために生まれたのか、他にはない優れた点は何か、使った人に何を与えてくれるのか、どんな想いを持っているのか、生活や時代の気分をどう変えてくれるのか、といった訴求テーマをごく短い言葉で切り取り、印象的に伝えることで、一瞬のうちにユーザーの心を捉えようとします。
そのため、強い言葉を投げかけたり、一見しただけではよくわからないような謎を含んでいたり、ちょっと奇をてらっていたり……。そうかと思うと、やけにストレートに想いをぶつけてくることもあります。
あの手この手でインパクトを与え、何とか相手の心のアンテナに引っかかろうとするのがキャッチコピーです。
それを見た読み手はというと、突然心に踏み込んできた言葉に対し、「あれ? なんか気になる。でも、これだけではすべてを完全に理解することはできない。だからこそ、よけい気になる。う~ん、何だろう、この気分って……?」というようなザワザワモヤモヤした感覚に襲われます。それでついつい立ち止まってしまうのです。
軽く突き放したり、しなだれかかってきたりして相手の心を引っかけようとするなんて、まるで小悪魔みたいじゃありませんか、キャッチコピーってヤツは。
キャッチコピーの誘惑に負けて立ち止まってしまった人はどうするか?
このキャッチコピーが何を伝えようとしているのか知ろうと、ボディコピーを読むことになります。
つまり、キャッチコピーには人の心に引っかかるよう「フック(鉤)」が仕込まれていて、その目的は、最終的には商品や企業の方を振り向かせること、そのための第一アクションとして、ボディコピーを読ませることだと言えるでしょう。
「ボディコピー」は、キャッチコピーの世界観の謎解き役
気まぐれな変化球を投げてくる「キャッチコピー」に対し、それらの変化球を“捕手”のようにしっかり受け止めてさばくのが、「ボディコピー」です。よくできたボディコピーは優れた“捕手”と同様、チーム全体の要(かなめ)ともなり得ます。
つまり、こういうことです。
上質な「ボディコピー」は、キャッチコピーの中に仕込まれたフック(謎掛けや独自に構築された世界観、言葉遊び、斬新な言い回し等)について、なぜそんな表現になったのか“謎解き”をしてみせながら、その奥に隠れされた“想い”を読み手に伝えます。さらに、商品やサービスの簡単な内容や企業姿勢など、その広告の訴求ポイントに触れて読み手にインプットし、共感を覚えさせるように導きます。
これこそ、「ボディコピー」がキャッチコピーとセットで作られる理由であり、ときにキャッチコピーをも凌いで読み手の心をつかむことさえある「ボディコピー」の真の力なのです。
「キャッチコピー ✕ ボディコピー」 コンビネーションの実例
キャッチコピーとボディコピーは、それぞれの役割を果たしながら、互いを補完しあう存在です。
では、いくつか実例を見ていきましょう。
実例1) 商品広告の例 「クレイパック(化粧品)」
顔に 泥 を塗る。
誰かの顔に泥を塗るのは感心できませんが、
ご自分の顔には、週に1、2回、
ぜひ、この 泥 を塗ってください。
ミネラル成分たっぷりの多孔質のクレイが
メラニンを含む古い角層や老廃物をやわらかくして吸着。
オーガニックの力で紫外線ダメージもリセットします。
洗い流した後は、くすみやゴワつきのない
明るくすべすべな肌へ。
お風呂でも使えるすぐれものです。
【解説】
「顔に泥を塗る」という慣用句をキャッチコピーとして大きく掲出。マイナスイメージが逆にフックとなり、見る人の心に引っかかります。「泥」の文字には、「クレイ」のルビが振られています。
ボディコピーでは、キャッチコピーで掲げた慣用句を使いながら始まり、ここで言う「泥」は 泥 パックであることを謎解きし、使用を勧めます。
後半では、商品機能(成分、働き、使い勝手)を伝え、なれる肌(明るい未来)を想起させてまとめています。
商品機能をしっかりと訴求するタイプの広告作りが求められる中、キャッチコピーでフックを設定し、ボディコピーでフックの謎解きを行い、それを機に、商品機能の概要を伝える形を構築しました。
こちらは数年前に、雑誌広告用に私が作ったコピーです。(未発表)
実例2) ブランド広告の例 「NONIO」
“思い切って話しかけてみたら、気が合う先輩だった。
おめでとうを直接伝えたら、友達が喜んでくれた。
昨日言えなかったことを、今日は言えたとか。
スマホですませがちなことを、しっかり話せたとか。
そんな小さな積み重ねで、人と人は近づいていくと思うから。
口を開けば、心が近づく。
ひらけ、自分。
口臭科学から生まれたノニオ。NONIO
【解説】
まず目に入ってくるキャッチコピーは、「ひらけ、自分。」
誰もが知る「ひらけ、ゴマ。」と同じ組み立てで、意味はよくわからないものの、何か精神的なことを言っているのかな、という気がして心に引っかかります。
キャッチコピーの上に配置されたボディコピーに視線を移し、読んでみると、“人と対面で会話することを通して互いの心が近づいていく”ことが語られています。そこには必ず“口を開いて言葉を交わす”という動作が介在するわけで、暗に、“いつでも口を開いて、人と心を開きあえる自分でありたいよね”という共感を誘っています。
ボディコピーを読むことで、キャッチコピーの「ひらけ」が、“心”と“口”のことを言っていたのだとわかります。
この広告は、特定の商品広告ではなく、ブランド広告であるため、ボディコピーの中では商品の機能面には一切触れていません。
ちなみに、キャッチコピーの上の「口を開けば、心が近づく。」は「リードコピー」と言って、二つのコピーをスムーズにつなぐ役どころとして添えられています。この広告の場合は、ボディコピーからキャッチコピーへ違和感なく読ませるために置かれています。
実例3) 企業広告の例 「HONDA」
“がんばっていれば、いつか報われる。持ち続ければ、夢はかなう。そんなのは幻想だ。たいてい、努力は報われない。たいてい、正義は勝てやしない。たいてい、夢はかなわない。そんなこと、現実の世の中ではよくあることだ。けれど、それがどうした? スタートはそこからだ。技術開発は失敗が99%。新しいことをやれば、必ずしくじる。腹が立つ。だから、寝る時間、食う時間を惜しんで、何度でもやる。さあ、きのうまでの自分を超えろ。きのうまでのHondaを超えろ。
負けるもんか。
HONDA
The Power of Dreams
【解説】
こちらは、HONDAの企業広告です。
キャッチコピーとボディコピーのコンビネーションが素晴らしい効果を生み出している、究極の作品だと思います。
実例2)と同様、こちらもキャッチコピーの上にボディコピーが配置されています。
大文字で最初に目に飛び込んでくるのは、キャッチコピーの「負けるもんか。」
まず、このキャッチコピーの強さに惹かれます。次に、意味を考えた時、「何に? TOYOTAに? NISSANに?」などという考えが頭をかすめます。
それから視線を上に移しボディコピーを読み始めると、キャッチコピーの強さのままに、誰もが人生で経験したことがある夢と幻想、挫折、それに負けない強い心を持ち続ける勇気などを追体験することでしょう。その気持ちを維持したまま、ボディコピーに導かれるまま、読む人は、“技術のHONDA”が同じように挫折を繰り返しながら、1%の夢に賭けて、歯を食いしばって前進し続けていることに気づかされます。その気づきは、読む人にとって大きな励ましになります。さらに、その励ましは、HONDAが日々自らを叱咤激励している、その姿勢にほかならないことを知ります。
そこまで読んで、改めてキャッチコピーの「負けるもんか。」が目に入ってきます。それは、最初に見た時とは明らかに違う熱量と重量感をもって、ずしりと心に響くはずです。そしてそれが、ほかでもない「“自分自身に”負けるもんか。」を意味するものであったことに気づくはずです。
文字のみのシンプルで力強いレイアウトと、あえてボディコピーを上に配置することで、キャッチコピーのより深い意味を伝えることに成功した、素晴らしい作品だと思います。
「キャッチコピー」と「ボディコピー」は、頭のココを使って書く!
「キャッチコピー」と「ボディコピー」、両者の違いや互いの関係性が見えてきたと思います。
この二つは通常セットで作られるとお伝えしましたが、性質の異なるものを作るのですから、おのずと頭も異なる部分の異なる力を使って作っているように私は感じています。もちろん、一つの広告を作り上げるわけですから、共通して使う頭の部分もあります。
私の感覚では、以下のようなところでしょうか・・・
準備段階に必要な、共通の基本力
まず、クライアントや代理店等の方から制作目的等をヒアリングし、資料を渡されます。これらの中からコピー制作に向けて必要な情報をキャッチし、何をどんな表現で伝えるか、複数の案を作っていくことになります。
資料を読む際に気をつけたいことについては、以下の記事を参照してください。
うすい流 キャッチコピーもボディコピーも感動3割増しに作れる、資料の読み方のコツ
下準備をする時に必要なのは、以下のような「基本力」です。
① 読解力
聞いた話や読んだ資料の内容を間違いなく理解でき、書かれていない想いにまで想像を及ぼすことのできる、「読解力」。
② 分類力
様々な形で集めた情報を「分類する力」。キャッチコピーやボディコピーに使えそうなワードや内容、商品紹介の場面等で必ず使うべき要素、まだどこに使うかはわからないものの必ず触れたい要素など、資料を読みながら内容を分類していきます。
③ 分析力
収集・分類した要素を自分なりに「分析する力」。何を、どの場面で、どのように伝えればよいか、決めていく力です。
④ コンセプト力
「キャッチコピー ✕ ボディコピー」のワンセットの中に、どのようなフックを仕掛け、どのように謎解きをしていくか。「コンセプトを生み出す力」が必要です。
キャッチコピー制作に必要な力
① 抽出力
ヒアリングした内容や資料の中から、キャッチコピーのタネになりそうなワードやヒントを選び出す力。
② 直感力
様々な要素の中から、何が大切か、どこに着目すべきか、本能的に嗅ぎ取る力。分析結果に頼るだけでなく、直感でつかみ取ったものの方が的確なこともあります。
③ ひらめき力
発想を飛ばす力。アイデア力とも言えます。要素に従って組み立てたキャッチコピーの原型を、核を維持しながら自由なひらめき・発想で大胆に言い換えてみる力です。
ボディコピー制作に必要な力
① 構成力
ボディコピーの中で語るべき要素は何か、それをどのような順番でどう語れば最も的確に伝わるか、全体像を組み立てる力。
② つじつま力
キャッチコピーの謎解きや、その他の伝えるべきことがらを、一連のボディコピーの中に何の違和感も矛盾もなく丸く収めることのできる、つじつま合わせ力。コピーライターがぜひ身につけたい、とても大切な力です。
③ 基本的な国語力
誤字・脱字や文法の間違い、慣用句の間違った使い方などのない、美しい日本語を操る基本的な国語力は必須です。コピーの言葉は文法に縛られる必要はありません。でも、わかってやっているのと、わからないでやっているのとでは、大きな差があります。
まとめ
キャッチコピーとボディコピーは、ワンセット。一緒になって読む人の心に引っかかり、商品や企業の魅力を伝えようとします。
「キャッチコピー ✕ ボディコピー」の世界で、どんなフックを形作り、どのように美事に謎解きしてみせるか。一分の隙もないコピーを作り上げるのは、気の抜けない厳しい作業です。
でも、そこにはコピーライターだけに許された、一つの新しい世界を構築する楽しみが潜んでいます。
その喜びを知って、私はコピーライターの仕事がやめられなくなってしまったのです。
この記事を書いたのは
うすいふじこ
コピーライター、プランナー
コピーライター歴、約20年。紙媒体からウェブサイトまで、商品広告、企業広告、フリーペーパーや広報誌の編集・制作、会社案内、イベントのスローガン、インタビュー記事など、数多くの制作に携わってきました。
これまで自分なりにやってきたコピーライティングの仕事の進め方やコツ、また、言葉について日々考えたことなどを公開していきます。
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2024.02.14 19:50