うすい流 失敗サイトに学ぶ、キャッチコピーの役割検証
ネット社会という現代において、自社のウェブサイトはもはや不可欠なもの。よくできたサイトは会社の信用や親近感を高めるだけでなく、人手不足を補い、優秀なセールスマンとして売り上げまでしっかりと上げてくれます。
そんな時代にあって、「うちのサイトはなんでうまくいかないんだろう?」「もっと効果を上げるには、どうしたらいいんだろう・・・?」と、悩みは尽きないことと思います。
今回は、私がこれまで体験した仕事の中から、「この考え方や方法では、どれだけやっても成功はむずかしそう」と思った“残念な実例”を挙げ、「キャッチコピーの持つ様々な役割」について考え、ウェブサイトを成功に導くヒントを探ってみます。
あるメーカーのB to C戦略上のミス
その“残念な実例”とは、ある外資系メーカー。本国では歴史のある会社で、日本国内でもB to Bでは一定のシェアを占めています。販売をB to Cにも展開するにあたり、新たなウェブサイトを構築することになりました。私が参加したのは、既にシステムもできあがり、サイトのテスト版が公開されて間もない頃です。
その会社のB to C戦略は、自社サイトでのネット販売を集中的に伸ばしていこうというもの。よそで売るより利益率が格段に高い、一番おいしい販売ルートです。
日本支社長は他の外資系企業で営業部長から社長まで歴任し、ネット事情にも精通した頭の良い人でした。この計画自体トップダウンで行われていたため、仕事がとにかく早い。ネットでの広告展開、インフルエンサーとなり得るイメージキャラクターの選出、プレゼント企画や割引システムによる囲い込み、ユーザーを集めての座談会、雑誌とのタイアップイベントなどを次々に実施し、毎週のようにサイト運営業者とミーティングを行って効果を測定します。
私は、テスト版のサイトを正式公開するためのリニューアルに携わりながら、周辺の小さなコピー作業をいくつか行ったのですが、この会社には決定的な不備がありました。
キャッチコピーを作らないのです。
「この商品は何モノか」キャッチコピーを打ち出すタイミング
ウェブサイトをいよいよ本格稼働させるにあたり、この商品が何モノなのか、今こそ明確に打ち出すべきタイミングです。むしろ、遅すぎるくらいです。しかしこの会社は、ウェブ広告の商品写真に「今だけ、〇%OFF!」の大文字を添えるだけ。他社の競合商品を充分意識しているにもかかわらず、「それに対してうちの特長はコレ」という打ち出しは全くしようとしません。ほとんどのユーザーにとって初お披露目の商品を市場に送り出すこのタイミングにこそ、キャッチコピーが必要かつ重要だ、という認識が完全に欠落しているようでした。
こちらから折を見てキャッチコピーを作るべきと何度か提案しようと試みましたが、もともとその方向にアンテナを持たない社長ですから、反応はゼロ。テスト版用に作られた何の特徴もないゆるーいコピーをキャッチコピーとして使い続けるのでした。
社員の方たちはと言うと、やたらと決断が早く一人でどんどん動き出す社長にまったくついて行けず、「何をどう売っていけばいいのか」という悩みを抱えたまま右往左往するばかり。
ひと通りの役目を果たしたところで、私もお仕事終了とさせていただきました。
キャッチコピーの役割を検証する
その後、実店舗でその商品を見かけることはなく、ネット上でバズるのも見たことがありません。久々にサイトを覗いてみたら、自社サイトでの販売は形だけ残っていましたが、大大的に取り組むのはやめたようでした。相変わらずキャッチコピーらしきものも見当たらず……。
あれだけ綿密にネット上に販売システムを構築し、広告にも予算を割き、毎週のように成果を検証していたというのに……。まさに、策士策に溺れたり。
もちろん、失敗の理由はいろいろとあったと思います。が、ここではしっかりしたキャッチコピーを構築しなかったことに注目し、キャッチコピーの役割について検証してみましょう。
1)ユーザーに振り向いてもらう
モノを売ろうと思ったら、まず、その商品に興味を持って振り向いてもらわなければなりません。そのとき、大きな力を発揮するのがキャッチコピーです。
その商品はどんなモノか、なんのために生まれたのか、他にはない優れた点は何か、使った人に何を与えてくれるのか、生活や時代の気分をどう変えてくれるのか、etc. etc. 数ある特徴の中から一番の強みや魅力をつかみ取って作るキャッチコピーは、目にした人に一瞬でアピールし、商品自体へと振り向かせます。
2)ユーザーとの約束
キャッチコピーは、ユーザーとの約束でもあります。振り向いてもらうために伝えた言葉に嘘があってはなりません。
キャッチコピーを見て商品を購入したユーザーは、本当にその通りかどうか期待を持ち、使うときに自分の感覚の中でそれを確認します。
期待した通りであれば、その商品や企業への信頼が生まれ、リピート購入へとつながるチャンスが生まれます。
逆に、「言っていたのと違う」ということになると信頼は裏切られ、おそらく二度とその商品を手に取ってもらうことはできません。
その商品が本質的に良いモノかどうかという事実より、キャッチコピーの約束通りかどうかの方が、商品評価を左右する可能性があるのです。
3)インフルエンサーにバズる素材を提供する
今回の事例のように、インフルエンサーやマスコミ、アクティブなユーザーなどをプロモーションに使う場合、ただ商品サンプルを渡すだけでは何の効果も期待できません。逆に、商品に関する大量の資料を渡しても、そのままでは無駄になる可能性が高いと思います。
必ず渡すべきなのは、「この商品が何モノなのか」を示すキャッチコピーと、そのキャッチコピーを受けて簡単に商品概要を伝えるボディコピーです。企業側がその商品をユーザーにどのように受け止めてほしいのか、明確なイメージを作ってバトンを渡すのです。
イメージがぼんやりしたままでは、仕込んだインフルエンサーやマスコミもバズりようがありません。また、個々の印象をばらばらにつぶやいてもらっても、ビッグウェーブは起こりません。
4)社内に統一見解を作る
キャッチコピーは外へ向かってのみ発信されるわけではありません。社内に対しても、その商品の存在を示す大事なツールとなります。キャッチコピーができれば社員の方たちは、その商品について次のようなことをイメージできるようになります。
・何を売りにしていくのか
・ユーザーから、どう見られたいのか
・どんなコミュニケーションを取っていけばいいか
・競合他社商品と、どう差別化を図るか
外に対しても、内に対しても、ブレないプロモーションを行うためにキャッチコピーは大きな役割を果たしてくれるのです。
おわりに
「キャッチコピーを制作する」とは、「訴求ポイントを構築する」ということ。
それは、発信する企業と受け取るユーザーとのコミュニケーションの接点となるだけでなく、社内には統一見解をもたらすものです。
制作に当たっては、言葉のプロであるコピーライターに委託するケースも多いと思います。その際はぜひ、今回見てきたようなキャッチコピーの役割を念頭に置き、コピーライターとしっかりコミュニケーションを取って、企業側の熱い思いを伝えてください。
商品の魅力の分析や売り方の方向性決めなどの段階から、コピーライターにも打ち合わせに参加してもらい、ともに組み立てていくのも、よいキャッチコピーを構築するのに有効だと思います。
うすいふじこ
コピーライター、プランナー
コピーライター歴、約20年。紙媒体からウェブサイトまで、商品広告、企業広告、フリーペーパーや広報誌の編集・制作、会社案内、イベントのスローガン、インタビュー記事など、数多くの制作に携わってきました。
これまで自分なりにやってきたコピーライティングの仕事の進め方やコツ、また、言葉について日々考えたことなどを公開していきます。
「こんなテーマで聞いてみたい」ことなどありましたら、リクエストしてください。可能な限りお答えしていきます!
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