インサイト発見のためのユーザーインタビュー ①本音をつかみ、隠れたニーズを洞察する
ユーザーの声による商品開発が、近年うまく行かないという事例が確認されています。
例えば、サラダマック。
「ヘルシーじゃないからマクドナルドには行かない」「ヘルシーなメニューがいい」といった顧客の調査データから2006年に発売されました。しかし思ったようには売れず、ついに販売中止となりました。
一方、その後登場した肉厚パテのクォーターパウンダーは大ヒット。ユーザー調査の結果とは真逆の反応だったわけです。
実は、この「サラダマックの失敗」と同様の事例が数多く報告されています。いずれもユーザーの声を言葉通りに受け止めたための失敗です。
では、ユーザー調査はどのように行えば、売れる商品開発へつながるのでしょうか?
これから2回にわたり、インタビューによってユーザーの本音を正しくつかみ、隠れたニーズ(インサイト)を洞察するための手法を紹介します。商品開発部門の方だけでなく、広告担当の方も、ぜひご一読ください。
【目次】
インタビューでつかむべき“本音”とは
誰にでも、「気づいていない本音=インサイト」がある!
「サラダマックの失敗」は、ユーザーである回答者の発言を言葉通りに受け止めてしまい、本音を正しくつかめなかったことに原因があります。
おそらく、「ヘルシーなメニューがいい」という回答者の発言にウソはありません。
しかし、いざお店に行って「クォーターパウンダー」を目の前にしたら、「サラダマック」ではなく、そっちが食べたくなってしまったのです。
このことから、「肉は控えて野菜を食べるべき」という考えは、実はタテマエであり、本人も気づいていない本音、即ちインサイトは「マクドナルドではハンバーガーを食べたい」だったと推論することができます。「ファーストフードは体によくないと思うけど、お店に行ったらハンバーガー食べちゃった」というのには十分共感できますよね。
この「本人自身も気づいていない隠れた本音」のことを「インサイト」と呼びます。インサイトの発見が、プロモーション施策の成功や商品のヒットにつながる鍵となります。
「機能的価値」と「情緒的価値」
インサイトを探る方法論を語る前に、人の価値観について見ておきましょう。
人が商品に対し感じる価値には、大きく分けると「機能的価値」と「情緒的価値」があります。掃除機を例にとると、「目詰まりしない」「重くない」「安い」などが機能的価値です。一方、「メーカーがなんとなく信頼できる」とか、「商品になんとなく癒される」といったイメージ面(精神的な面)の強みが、情緒的価値です。
人がものを選ぶ際、あるときは「機能的価値」を優先させてじっくり比較し、またあるときは「情緒的価値」を優先させて直感で決めたりします。
機能がほぼ同等である場合、あるいは場合によっては「機能的価値」では負けていても、「情緒的価値」が決め手となって商品を選ぶことは多々あります。わたしにも、さんざん比べたあげくに「機能は劣るのになんとなく安心できるからと高い方を買ってしまった!」という経験はよくあります。
企業は「機能的価値」の充実に躍起になりがちですが、商品を売るにはむしろ「情緒的価値」が重要な場合もあります。そして、この「情緒的価値」を探るには、アンケートよりインタビューが適していると考えられます。
手軽なアンケート調査、ではダメ?
ユーザー調査の代表的な方法として、インタビューの他にアンケートが挙げられます。
インタビューより手軽なアンケートはしばしば行われ、商品の改善に役立った話はよく聞きます。
しかし、アンケートにできるのは、「改善」までです。
プロダクトライフサイクル*1の図を見ながら、時期に応じたユーザー調査の方法を考察してみましょう。
プロダクトライフサイクル
ある商品(たとえばサイクロン式掃除機)が世に出たての導入期は、競合がいない、または少ない状態です。ユーザーの反応にもはじめて直面するので、そこから多くの改善点が見つかる時期でもあります。
この時期は、アンケートをきっかけにした「改善」でも一定の効果が上がります。
商品が売れて成長期に入ると、市場が大きくなり、競合も増えてきます。売れる市場だとわかると参入が多くなるわけです。
サイクロン掃除機も最初はダイソンだけでしたが、今ではシャープ、パナソニックなど競合がひしめき合っています。
この時期になると、「動かしやすくなった」とか「〇g軽くなった」などのアンケートによる改善では売上アップにつながりにくくなります。この程度の「改善」では、購入動機につながるようなインパクトは与えることができないのです。
そんな時期こそ、本音を探るインタビューの出番です。
表面的な改善を目指すのではなく、ユーザー自身も気づいていない本音を探り、インパクトの大きなアイデアで商品に新機軸を打ち出す必要があります。
そもそもアンケートでは、おやっと思うようなユーザーの発言に対し、深掘りの質問をすることができません。
しかも、仕草などの非言語的コミュニケーションがないため、本音をとらえにくいのです。
アンケート用紙に書かれた言葉のみを分析するのは、本音を履き違える恐れがあり、とても危険です。
競合が多くなった、商品がコモディティ化している、といったことが気になるのであれば、インサイトの発見を目指し、アンケートではなくインタビューを行うべきです。
*1 プロダクトライフサイクル(PLC/製品ライフサイクル)
1950年ジョエル・ディーン提唱の、製品が市場に登場しそして退場するまでの売上と利益に着目したマーケティング理論
Philip Kotler, Kevin Lane Keller 「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント」
参考 岩嵜博論 「機会発見」
回答者は、100%は語らない(ジョハリの窓)
インタビューを行う際、認識しておかなければならないのが、回答者自身が「隠れた本音=インサイト」のすべてを発言することはまずない、という事実です。
インサイトは知られたくない感情や回答者自身も気づいていない感情も含んでいるからです。
インタビュアーに対し、回答者はどこまで本音を開示してくれるか、そして、インタビュアーが本当に明らかにしたいのは何なのかを、「ジョハリの窓*1」というフレームワークを使って見てみましょう。
「ジョハリの窓」では、「回答者自身」が気づいていること、気づいていないことと、「インタビュアー」が気づいていること、気づいていないことの組み合わせを4つの窓で表し、それぞれの窓の開き方を考察します。
ジョハリの窓
① 開かれた窓
ここは、回答者が自分の感情としてインタビュアーに正しく伝えられていることです。いわゆる「ニーズ」です。
アンケート調査では、せいぜいここしか解明できません。
② 隠された窓
回答者がインタビュアーに話さない、すなわち隠していることです。
たとえば、「ベンツを買った理由は?」と聞かれて、「友人に自慢したいから」とは答えたくないですよね。
この窓を開くには、回答者が正直に話せるような雰囲気や信頼関係を作ること、また、質問の仕方を工夫することも大切です。
③ 気づかない窓
インタビュアーは予測できているのに、回答者自身が気づいていないことです。
④ 未知の窓
回答者もインタビュアーも気づいていないことです。
人の行動の95%は無意識に行われている*2とされています。
アップルの創業者ジョブス氏もこのことに言及しています。
「何が欲しい?と聞いても答えないが、実物を目の前にすると欲しいと言う」と。
つまり、ユーザーも気づいていない、この「未知の窓」を開くことこそが、大ヒット商品につながるチャンスなのです。
「①開かれた窓」と「②隠された窓」は、回答者自身が気づいている、すなわち意識している部分です。
一般に、意識は氷山の一角と言われ、無意識の方がはるかに大きく、行動にも影響を与えるとされています。
インタビューでは、無意識の領域である「③気づかない窓」「④未知の窓」を少しでも大きく開くのが成功の秘訣です。
特に「未知の窓」は、インタビュアーがユーザーである回答者に寄り添い、共感することで開かれ、洞察によって立てた仮説として見出されます。
*1 ジョハリの窓 心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリ・インガム (Harry Ingham) が発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」
*2 ジェラルト・ザルトマン 「心脳マーケティング」
参考 株式会社アンド 「ビジネスフレームワーク図鑑」
最適なインタビュー対象者とは?
では、ここからは「未知の窓」を開き、本音を明らかにするためのインタビュー対象者について考察していきます。
エクストリームユーザーを選ぶ
結論から先に言います。新しいアイデアを得たいなら、インタビューはエクストリームユーザーにするのがお勧めです。
エクストリームユーザーとは、普通の人とは異なる「極端な使い方(量、頻度、使用方法等)」をしている人のことを言います。
- エクストリームユーザーの例
-
・大量に使っている人
・極端に回数多く使っている人
・変わった使い方をしている人
※逆に、極端に使わない人もエクストリームユーザーとなります。
エクストリームユーザーを対象にする理由は何でしょうか? 豆腐販売の成功例から考えてみましょう。
1985年、森永乳業の雲田社長は、日本食ブームだったアメリカで初めて、豆腐販売に挑戦しました。
当初は、醤油と鰹節を添えた食べ方をお店にレクチャーして回ったのですが、まったく売れなかったそうです。
あるとき、スーパーの試食コーナーに立ち続けた雲田氏は、豆腐を大量購入する主婦を発見しました。
すぐさま、「なぜそんなにたくさん購入を?」と聞くと、「フルーツと一緒にシェイクにするととってもおいしいのよ」と教えてくれました。
日本人の常識では考えられないこの言葉にヒントを得て、スーパーでシェイクの試飲を行うと、爆発的にヒット。
このように、エクストリームユーザーは、メーカーや一般ユーザーが気づいていない、商品の新たな魅力に着目していることがあります。
つまり、先のジョハリの「未知の窓」に無意識で気づいている、ということです。
このように、エクストリームユーザーは、誰も気づいていなかったヒントを与えてくれる可能性があるのです。
エクストリームユーザーに聞くことで、「気づかない窓」を開くことができる
ここで、エクストリームユーザーを選ぶ際の注意点があります。
世間に影響を与えている、いわゆるインフルエンサーは、一見、エクストリームユーザーと思われがちです。しかし、彼ら/彼女らの目的は自身のコンテンツのアクセス数アップです。そのために商品を利用し、自分の“極端さ”を演出している場合があるのです。人選には注意してください。
参考 ジャスパー ウ,見崎 大悟 「実践 スタンフォード式 デザイン思考」
何人にインタビューするべきか?
アンケートでは、できるだけ多くの人に調査を行います。
一方、インタビューでは、有用なインサイトが発見できさえすれば、回答者はたった一人でもかまいません。
ここで、たった一人に市場を代表させてよいのか?という疑問を持たれるかもしれませんね。
「何を買うか=What」という「行動」については、なるべく多く調査(定量調査)をしないと答えがわかりません。
しかし、「なぜ買うか=Why」という「感覚」については、たった一人の答えから「未知の窓」が開く場合もあります。その答えを万人に適用することができれば、ヒットが生まれるのです。
(仮説検証のために別途ユーザー調査を行うことも有効です。)
まとめ
以上、インサイト発見のためにはインタビューが重要であることを見てきました。
ユーザーがすでに気づいていることは表面的なニーズであり、インサイトではありません。
インサイトは、インタビュアーがたったひとりのユーザーに共感し、その上でインタビュアー自身が洞察することにより発見を成し得るものなのです。
では、ユーザーの情緒的な価値や、本音、すなわちインサイトを暴き出すには、具体的にどのようにインタビューを行えばよいのでしょうか?
次回は、その方法論を解説します。
9月半ばを予定しておりますので、もしよかったらメルマガ登録してご案内をお待ちください。
この記事を書いたのは
加藤春樹
ディレクター
WEB制作に約20年たずさわり、ECサイトやファッションブランドサイトなどさまざまな業種のホームページを制作しました。”成果のでる”ホームページを目指し、日々努力を重ねています。
WEBマーケティング、WEB制作に関する記事を執筆します。
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