そのターゲット設定で大丈夫? ジョブ理論で顧客の真の購入理由を探り出せ!
自社の商品やサービスを売るとき、ターゲットを定めるのは大事なことです。あなたの会社では、ターゲットの設定をどのように行っていますか?
最近では、「20代首都圏在住の女性」くらいの漠然とした設定ではマーケティング施策を効果的に打てないことが多くなっています。なぜなら、ターゲット設定が漠然としていると顧客の真の購入動機を特定できないからです。
本記事では、顧客の真の購入動機を探るため、クレイトン・クリステンセン教授(ハーバード・ビジネス・スクール)の「ジョブ理論」と、そこから導き出されるマーケティング手法を紹介します。
「ジョブって、仕事のこと?」 これだけでは意味がわからないですよね。
この手法は、「どんな顧客にも解消したい問題や満たしたい欲求(ジョブ:job)があり、それを解決するために商品を購入する(雇う:hire)」という考えに基づくものです。
「いやいや、うちの商品はお悩み解消商品ではないんだよ」と思われる方もいることでしょう。しかし、例えばビールのような嗜好品でも、顧客は無意識の中に問題や欲求(ジョブ)があり、それを解決するために商品を購入しているというのです。
顧客の真の購入動機を発見することができれば、様々な施策も、より刺さるものへと進化させることができるはず。顧客の無意識の購入動機を見つけるヒントとして、ぜひ本記事をお読みください。
従来の手法では売上は向上しない!? ミルクシェイクの事例
クリステンセン教授が、あるファストフード店のミルクシェイクの売り上げ向上を目指し、こんな取り組みを行いました。
まず、従来のマーケティング手法によりターゲットをデモグラフィック属性(年齢、性別、職業、学歴など)で細分化します。4P分析により売り方を見直し、テスト販売をしては属性別にアンケート調査を行います。
実際に行ったアンケート調査は、以下のような内容でした。
・値段はいくらがよいですか?
・量はどのくらいがちょうどよいですか?
・固く凍った方が好きですか?
・チョコレート味が濃い方が好きですか?
アンケートの結果を受けて商品を改良し、テスト販売を行い、またアンケートを取る―――。これらの一連の作業を数ヵ月間もの時間をかけ、徹底的に繰り返したのです。
さて、結果はどうだったでしょうか?
結果; 残念ながら、従来の手法では売上は向上しなかった。
新しい手法へ。顧客のジョブを探る
この失敗からクリステン教授は、これまでのマーケティング手法とはまったく異なる別の手法が必要であることに気づきました。
そこで彼は、顧客には何らかの解消したい問題や満たしたい欲求(ジョブ)があるのでは?という視点から再度調査を行ったのです。
行動観察調査を行う(購入前・中・後の分析)
まずは、来店して購入する人を、下記の点から観察しました。
・来店の時間帯は?
・服装は?
・ひとりで来たか?
・いっしょに購入したものは?
・店内で飲食か、お持ち帰りか?
その結果、次のような特徴を持つ顧客層が存在することがわかりました。
午前9時前に、ひとりで来店し、ミルクシェイクだけを買い、車で走り去る
インタビューを行う(顧客の本音の分析)
その「午前9時前に来店する客」をつかまえて、直接インタビューを行いました。最も知りたい「購入動機」を探るためのインタビューです。
どういう目的で購入しましたか? (購入動機)
すると、下記のようなことがわかりました。
・車での通勤は退屈な時間
・その退屈を紛らわせる何かがほしい
・ランチまでに小腹がすくのを解消したい
さらに、ライバル商品を探るための質問もしました。
もし、ミルクシェイクがなかったら何を購入しましたか? (競合、代替品)
回答は予想外のものでした。
・バナナでもいいが、すぐに食べ終わってしまって退屈しのぎにはならない
・ドーナツを買うこともあるが、ボロボロこぼれるし手がベトベトになるので運転中には不向き
・ベーグルはパサついていて、のどが詰まってしまう
・スニッカーズ(チョコ)は甘すぎて健康的でないうえ、罪悪感を覚える
なんと、ミルクシェイクのライバルは、バナナやドーナツだったのですね。ジョブの視点がなければ、気づけないところでした。
さあ、徐々に顧客の本音(インサイト)がわかってきました。
顧客の真の購入動機は?
クリステンセン教授はジョブ理論を下記のように定義しています。
ある顧客が、ある特定の状況で、解消したい問題や満たしたい欲求(job)を解決するために商品を購入(hire)すること
ミルクシェイクの客の例でいうと、車通勤者(ある顧客)が長時間の運転中(特定の状況)に、退屈(job)を解決する目的で購入(hire)したということがわかりました。
ミルクシェイクを購入する理由は、空腹だけではないのですね。
このジョブ理論は、あなたの会社の商品やサービスにも当てはめることができます。次章で紹介する、ジョブ発見の取り組みを、ぜひ行ってみてください。
ジョブは1つとは限らない
この調査を進めていくと、「朝の車通勤者」以外の顧客層の、他のジョブも見つかりました。休日の午後や夕方に増える大人の男性層が抱えるジョブです。
彼らは、小さな子供を持つ父親で、いつもは子供たちにあれやってはダメ、これやってはダメと怒りっぱなしだったのです。そのため、たまには優しい父親になりたいというジョブを解決するためにミルクシェイクを購入していたのです。
車通勤者の場合とは全く異なるジョブが見つかりました。
このように、商品が購入される理由、即ち“ジョブ”はひとつではありません。客が増加している曜日や時間帯をグルーピングすることで、その顧客層の共通のジョブは見つけやすくなります。
ジョブを探るための取り組み方
さて、この章では、ジョブ理論を実践するにあたり重要なポイントを解説します。
3つの市場細分化の方法を知り、見直そう!
まずは、ターゲット設定について考えてみましょう。
ターゲットを設定するために行う市場の細分化方法としては、主に以下の3つが挙げられます。
1)「顧客は〇〇だ」で細分化する方法
顧客をデモグラフィック属性(年齢、性別、職業、学歴など)や、ジオグラフィック属性(地域、都道府県など)で細分化します。顧客にアンケートを行う、もしくはGoogleアナリティクスのユーザー属性を見ればある程度判断できるので、比較的取得しやすい情報です。
しかし、ミルクシェイクの例でもデモグラフィック属性によるターゲティングは無効でした。
ライバル商品が少なかったり顧客がその商品を見つける方法がなかったりした1980年代くらいまでは、同年代をターゲットとする雑誌に広告を打てば大きな反響が得られました。しかし、今はモノがあふれ、似たような商品をPCやスマホでカンタンに比較できる時代です。そのため、顧客のニーズにぴったりと当てはまるものを、しっかりと刺さる広告や施策で訴求しないと、モノは売れません。
つまり、今はデモグラフィック属性やジオグラフィック属性だけに頼って効果を期待するのは難しい時代なのです。
あなたの会社も、漠然と「20代後半の女性」とターゲットを設定するだけに終わっているようでしたら、ぜひ見直していきましょう。
2)「〇〇した顧客」で細分化する方法
顧客の行動に注目します。
行動に注目した細分化の例 )
・購入頻度、購入量、購入回数、使用量
リアル店舗であれば
・来店時間帯
WEBサイト上であれば
・訪問時間帯
・サイトを訪れた顧客
・広告をクリックした顧客
フェイスブックの広告効率が良いといわれる理由のひとつは、登録されているデモグラフィック、ジオグラフィック情報に加えて、上記のような行動に基づいたターゲティングをAIが行ってくれるということです。自分たちで細分化する場合も、デモグラフィック、ジオグラフィック属性に加えてユーザーの行動情報にも着目し、ヒントを得るとよいでしょう。
3)「顧客は〇〇な人」で細分化する方法
最も取得が難しく、担当者の想像力が試されるのが、心理学的細分化です。これは、顧客の趣味嗜好、価値観、購入動機、パーソナリティなどで市場を細分化する方法です。
クリステンセン教授のジョブ理論はまさに、心理学的細分化のひとつである「購入動機」を知るための取り組みでもあります。
購入動機がわかると広告や施策の訴求ポイントがわかるため、売り上げに直結することが期待できます。
ただし、心理学的細分化の要素は人の心の部分なので数値で表すことが難しく、解明するのは容易ではありません。
これらを取得するには、行動観察、インタビュー、アンケート調査などで明らかにする必要があります。そうして集めたデータをストーリーとして表現し、社内で共有するとよいでしょう。その方が感情移入しやすいので他の担当者にも伝えやすく、自らが忘れかけたときにも思い出しやすくなります。
市場細分化方法 | 例 | 難易度 |
ジオグラフィック属性による細分化 | 地域、都道府県 | 易しい |
デモグラフィック属性による細分化 | 年齢、性別、男女、職業 | 易しい |
行動学的細分化 | 購入数、訪問時間、 サイトに訪れた顧客 |
易しい (取得できない情報もある) |
心理学的細分化 | 購入動機、趣味嗜好、価値観 | 難易度は高い しかし、有用性が高い |
3タイプの購入動機を知り、ライバルと戦う!
引き続きターゲット設定について、今度は購入動機から考えます。
顧客が商品やサービスを購入する理由には、大きく分けて3つのタイプがあります。
1) 機能的な購入動機
ミルクシェイクの例で言うと、「空腹を満たしたい」「テイクアウトしたい」「ゴミの処理が楽」という、文字通りその商品やサービスの機能が購入動機になっています。
良い例が、掃除機のダイソン。前面に押し出しているのは「吸引力が変わらない唯一の掃除機」という“機能”だけです。
2) 感情的な購入動機
ミルクシェイクの例でいうと、「朝の通勤のご褒美にしたい」とか、「幸せなひと時を過ごしたい」といった感情的な理由で購入に至っています。
3) 社会的な購入動機
これは、他人からどう見られたいかを反映しています。ミルクシェイクの「休日の午後や夕方の顧客」の例で言うと、店内で子供にミルクシェイクを与えている親の本音は、店員や他の客、あるいはSNSに投稿する写真によって子供と仲良く過ごす姿から、「自分はいい親だ」という風に見られたいのかもしれません。これが社会的な購入動機です。
先ほど述べたダイソン社のように、機能的な購入動機だけで売れている商品はめずらしいと言えます。インターネットで検索すれば似たような商品やサービスがあふれ、価格も横並びの今こそ、感情的な購入動機、社会的な購入動機を探り、ライバルと勝負をするべきです。
ジョブが存在しても、障害があれば購入されない
市場の細分化や顧客の購入動機などを調査することで、顧客の抱えている問題や欲求(ジョブ)が見えてきました。しかし、ジョブが存在しても何らかの障害があると購入には至りません。
障害のひとつは、ライバル商品です。
ミルクシェイクの例ではバナナやドーナツの名前が挙がりましたが、バナナはすぐに食べ終わりますし、ドーナツは運転中には食べにくいので競合にはなりませんでした。しかし、車内でゆっくり味わえ、腹持ちのいいタピオカドリンクの店が現れたらどうでしょう? もしかしたら脅威になるかもしれませんね。
また、ユーザーは買うかどうか迷ったときには、購入しないという選択肢(無消費)を選ぶことがあります。無消費ユーザーの分析は非常に重要です。なぜ商品を購入しなかったのかを聞くことで、商品の改善点、PR不足などの気づきを得ることができるからです。無消費ユーザーが取った行動を調査することで、争うべき本当の競争相手が見えてくるでしょう。
障害を発見するには顧客の購入プロセスを確認する必要があります。
「購入プロセス」とは、商品の認知、検索、比較、購入、使用、SNSでシェアといったユーザーの行動ステップのことです。購入プロセスのどこに障害があったのかを、ユーザーの感情とともに確認していきます。
商品の購入プロセス
購入の障害は、後で紹介するカスタマージャーニーマップというフレームワークで可視化することで、より発見しやすくなります。
ジョブを見つける!
さて、ここからはジョブを見つける実践編です。
ミルクシェイクの例で見た通り、ジョブとは
ある顧客が、特定の状況で抱える、解消したい問題や満たしたい欲求
のことです。「顧客」「特定の状況」「解消したい問題や満たしたい欲求」の各々を整理しながら、ジョブの発見に取り組みましょう。
行動観察で筋のよい仮説を立てる
ジョブを発見するには、顧客の行動観察を行い、その後にインタビューを行うのが基本です。
◆実店舗で行う行動観察
経営者やマーケティング担当者が興味を示すのは、購入前や購入した時点の顧客の感情や行動です。しかし、購入した時点までの調査ではジョブは発見できません。
ジョブを発見するには、購入の前・中・後に分割し、特に購入後の顧客の行動や感情を徹底的に調査します。顧客の無意識にある本当の購入動機のヒントを得るためです。
インタビューは、行動観察で筋のよい仮説を立ててから行います。
ミルクシェイクの例で、もし、購入したばかりの顧客に「なぜ購入しましたか?」というような漠然とした質問をしても、「おいしいから」といった漠然とした答えしか返ってこないでしょう。だから行動観察で筋のよい仮説を立て、次に行うインタビューに備えるのです。
行動観察の例 )
・どのような時間帯や曜日に来店したか?
・どのような商品に興味を持ったか?
・商品棚に来たルートは?
・レジに行くルートは?
・一緒に購入した商品は?
無意識に行っている動作や表情なども観察して、より多くのヒントを得るようにしましょう。
特に売上が増えている曜日、時間帯などに注目して顧客をグループ化し、共通点はないかを探ることが重要です。朝、夕であれば通勤客、10時以降であれば主婦など、自分や身近な人たちの経験から洞察するとよいでしょう。
◆WEBサイト上でもできる行動観察
また、Googleアナリティクスを使い自社サイトでの行動観察をすることも可能です。Googleアナリティクスには、購入した顧客だけを抽出するセグメント機能や、サイト内でのページ遷移を可視化するユーザーエクスプローラー機能が含まれています。
Googleアナリティクスのユーザーエクスプローラー
ほとんどのサイトに、閲覧者の多くが購入(または申し込み)をする特定のページが存在するものです。これを「キーとなるページ」と呼びますが、その「キーとなるページ」をアナリティクスで確認することで購入動機の仮説を立てることも可能です。
実店舗であれサイト上であれ、行動観察は、できれば一人ではなく複数人であたり、結果を持ち寄ってミーティングを行うとよいでしょう。いろいろな人の経験が加味され、より多くの発見を得ることができます。
このようにして、インタビューのために筋の良い仮説を立てていきます。
インタビューを行う
顧客の購入動機として立てた仮説は正しいのか?あるいは別の購入動機があるのか? 次に、インタビューで直接顧客に聞いていきます。
◆探るのは顧客の“無意識”
先ほどお話しした通り、「なぜ購入したのですか?」といった漠然とした質問には「おいしいから」など、漠然とした答えしか返ってきません。
人が商品を購入する際、商品の性能や味だけで機械的に判断するのは稀です。真の購入動機は、実は本人にもわかってない場合が多いのです。
例えばMacBookの例で考えてみましょう。Dellや他のマウスコンピュータ等はMacBookより安く買え、性能もサポートもしっかりしています。それでも、MacBookユーザーが大勢いるのはなぜでしょうか? 彼ら彼女らは、口では「MacBookは性能がいいから買う」と言っていますが、実はMacBookで仕事をしている自分をオシャレでカッコいい人だと思われたい気持ちもあるかもしれませんね。(実は私もそうです!)
フロイトは、人の行動にはすべて心理的な裏付けがあり、それは「無意識」だと言いました。自分で意識していることは氷山の一角で、実は水面下に、意識よりもはるかに大きな無意識が存在するのです。
インタビューをするときは、顧客の無意識を読み取るつもりで行うようにしましょう。
意識しているのは氷山の一角。水面下には巨大な無意識が存在する
◆代わりにアンケート調査を行う場合
行動観察とインタビューのセットが、ジョブを見つけるキモとなることがわかってきました。
しかし、実際には時間や予算の都合上、実施が難しい場合もあります。そんなときはアンケート調査を行うのも一つの方法です。
アンケートにおいても質問の仕方が重要です。行動観察を行わないので、顧客の気持ちになり切った上で仮説を立て、質問文の作成に取り組みましょう。
アンケート調査を行う際、いくつか注意点があります。
- 謝礼はしない
- その方が本音を聞くことができます。謝礼がもらえると悪いことを書かなくなる恐れがあるからです。
- できるだけ文章で書いてもらう
- 選択方式のアンケートもありますが、顧客の感情は読み取りにくくなります。
参考例として、橋本哲児氏と岡本達彦氏のアンケートをご紹介します。
引用文献 橋本哲児 顧客の本音がわかる9つの質問(2014年発行)
Q1. 〇〇(商品名)にご満足いただけましたか?また、ご満足、ご不満の理由はどのようなものですか?
Q2. 最もご満足いただいた点は何ですか? またその理由はどのようなものですか?
Q3. 最もご不満だった点は何ですか? またその理由はどのようなものですか?
Q4. ◎◎(商品のカテゴリ)について、特にあなたがお悩みだったことはありますか?
Q5. 〇〇(商品名)を買った1番の理由はなんですか? その理由を教えてください。
Q6. 〇〇(商品名)を買った時に他の▲▲(同一カテゴリ名)も検討されましたか? よろしければ商品名などを教えてください。 また、その理由はなんですか?
Q7. 〇〇(商品名)を買った時に他の■■(別カテゴリ名)も検討されましたか? よろしければ商品名などを教えてください。 また、その理由はなんですか?
Q8. 〇〇(商品名)をどこでお知りになりましたか?
Q9. あなたの知人や友人に〇〇(商品名)をすすめる可能性はどのくらいですか? 10点(ぜひすすめたい)から0点(絶対すすめない)の間で点数を付けてください。
引用文献 岡本達彦 「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法
Q1. この商品を買う前にどんなことで悩んでましたか?
Q2. 何でこの商品を知りましたか?
Q3. 〇〇(商品名)を知ってすぐに購入しましたか? もし購入しなかったとしたら、どんなことが不安になりますか?
Q4. いろいろな商品がある中で、何か決め手となってこの商品を購入しましたか?
Q5. 実際につかってみていかがですか?
いずれも、購入する前・中・後の顧客の感情を聞くシンプルなアンケートとなっています。
顧客の購入動機を得るために、自社の仮説に即してアレンジを加えることをおすすめします。
ヒントはバリューチェーンの下流に!
一方で、自社のバリューチェーンにもジョブを見つけるヒントが存在します。
バリューチェーンとは、販売企画からアフターサービスまでの流れをフェーズごとに分類したものです。
バリューチェーン
ほとんどの経営者やマーケティング担当者にとって興味があるのは、バリューチェーンの上流である商品の企画から販売までであり、アフターサービスについてはコストを下げることにしか興味を示しません。
しかし、ジョブの発見で重要なのは「購入こそが顧客にとってのスタートである」という考え方であることは、「行動観察」の項で述べたとおりです。
商品購入後の顧客の行動や感情とともに、自社のアフターサービス、メンテナンス、カスタマーサポートにこそ目を向けるようにしましょう。気づきを得るために、他社の販売代理店のアフターサービス等に着目するのもよいでしょう。
一例として、たとえばコールセンターでジョブ発見につながりそうなエピソードがあれば、直接マーケット部門にその情報をメールで送るようなルールを作っておくとよいでしょう。
ペルソナを作成する
市場細分化の「心理学的細分化」でもお話ししましたが、ジョブ発見のためには、顧客がどんな人物なのか、より明確なイメージを持っている方が有利です。心理学的細分化をさらに進め、人物像として作成するのがペルソナです。
ペルソナは、単に「20代の首都圏に住む女性」といったざっくりしたものではなく、自分なりの意思や趣味嗜好を持ったあたかも実在するような人物として設定します。ペルソナを設定することで感情移入しやすくなり、顧客の購入動機の仮説が立てやすくなります。
ペルソナ像は、非常に詳細に作成する場合もありますが、ジョブ理論に基づいたマーケティングを行う際は、4、5行の記述で作成したペルソナで進めることも可能です。
ペルソナに関して詳細を知りたい方は、下記の記事をお読みください。
ペルソナの作り方、実例・解説付き! ターゲット分析を超える、次の一手!
カスタマージャーニーマップを作る
顧客の行動観察、インタビューやアンケート結果が出たら、カスタマージャーニーマップを組み立てます。
まず、顧客と自社や自社商品との接点(顧客接点、タッチポイント)を洗い出し、そこで顧客がどんな感情を抱いたかを書き込んでいきます。これをもとに、購入した理由、ライバル商品を購入した理由、無消費だった理由等を探っていきます。
ジョブを整理する
以上の取り組みでジョブが見えてきたら、全体を整理してまとめに入りましょう。別の部署の人と共有したり、時間が経った後でも見直したりできるよう、できるだけ箇条書きではなく短い文章でまとめます。特に、数値で表現できない定性データについては文章化し、程よく抽象化された状態、即ちストーリーで表現するのがよいでしょう。
以下は、ミルクシェイクの顧客(車通勤者)のジョブを整理した例です。
- 1. ペルソナ
- 車で30分以上かけて通勤する男性ビジネスマン。勤務地に近い家賃の高いアパートに住むより、郊外の広々とした家に住みたいと思っている。節約志向が強く、倹約家である。
- 2. 特定の状況(購入の前・中・後)
- 郊外からの通勤途中にあるファストフード店でミルクシェイクを購入して飲む。
- ( 購入前 )
会社までの運転が退屈。ランチまで何も食べないので空腹感は満たしたい。
( 購入中 )
平日の朝9時前に購入。一人でまっすぐミルクシェイク売り場に向かい、1点のみ購入し、そのまままっすぐ車に戻る。
( 購入後 )
退屈が紛れるし、ランチまでの空腹もしのげるだろう。満足だ。
- 3. 解消したい問題や満たしたい欲求 ※機能的、感情的、社会的の各側面から
- ( 機能的 )
ランチまでの空腹感を解消したい。
( 感情的 )
退屈な通勤時間に楽しみがほしい。
( 社会的 )
なし
- 4. 購入の障害となるもの
- 運転しながら食べられる他の食べもの。
例) バナナ、ドーナツ。
(しかし、バナナはすぐに食べ終わるので退屈しのぎにはならず、ドーナツはボロボロこぼれるし手がベトベトになるので運転中には不向き。よって、今は障害となっていない。)
- 5. ジョブを文章で表す
- 「車通勤する人」は、「退屈な朝の通勤時間」という状況で、「退屈をしのぎながらランチまでの空腹を満たしたい」という問題を解決したい。
- 6.ジョブスペックを書き出す
- ジョブスペックとは、顧客体験から導き出されるジョブ解決への必須ポイントや、前提条件となる商品スペックを個条書きにしたものです。
- ( ジョブ軸 )
・運転しながら食べられること
・食べ終わるまで最低20分くらいは持つこと
・ボロボロこぼれないこと
・手が汚れないこと
・ゴミ処理が簡単なこと
・ランチまで空腹が満たされること
・ヘルシーとまでは言えなくても、罪悪感のない食べ物であること - ( 製品軸 )
・バナナ味、容量〇ml、〇キロカロリー
- 7. ジョブの解決策
- このジョブを解決する手段として、現在はミルクシェイクが選ばれている。ミルクシェイクは退屈な通勤中に時間をかけて楽しむことができるし腹持ちもよいので、忙しい通勤中にわざわざ店に立ち寄り、車を降りてでも購入する価値がある。
ジョブがわかると売上アップの施策が見えてくる
ジョブを整理することで顧客の購入動機が明確になってきました。それをもとに、売上アップのための販売促進方法を考えてみます。次のような切り口はどうでしょう。
- 車通勤者が目にするであろう国道沿いに、「退屈な通勤を、〇〇社のミルクシェイクで楽しい通勤に!」と看板を出す。
- より選択してもらうため、味はおいしいまま、カロリーを抑えたヘルシーな商品に改良する。
まとめ
顧客の購入動機を探る方法として、ジョブ理論を紹介しました。
見落としがちな購入後の意識や動向を徹底的に調査することで顧客の解決したいジョブを発見する、という「ジョブ理論」を活用することで、顧客の真の購入動機の手がかりを見つけることができます。
また、商品は単に機能的な動機だけで買われるのではありません。感情的、社会的な動機を探ることも重要です。
ジョブが特定できると、販売促進だけでなく、筋の良い商品開発や改善施策を立てることができるようになります。従来のデモグラフィック属性、ジオグラフィック属性によるターゲット設定で効果を上げられていない企業にこそ、お勧めしたい手法です。
加藤春樹
WEB制作歴25年・受注件数約2,000件の実績をもつウェブディレクター・デザイナー・プログラマー。 日清食品やJR東日本、尚美学園大学など大企業/学術機関のウェブ制作にも多く携わってきた経験がある。 独自の「誘導中心設計」に基づくホームページを制作し、サイトからのイベント集客を2倍(1,500人→3,000人)にするなど、「売れるホームページ」作りに定評がある。
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